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キャンバスに生きる艶然たる女神たち

―昭和お色気イラストレーター・吉岡里奈氏を取材―Part2

《エロチカ・バンブーさん×都築響一さんトークショー記事》でも、
ちょこっとだけお名前の出てきたイラストレーター・吉岡里奈さん。
色っぽくて昭和レトロ、なのにどこかしらポップなお色気イラストの数々……。

近年カルチャー界でも熱い注目を浴びている彼女の絵と、
キュートな彼女自身の魅力を探っていきたいと思います。

―そこはかとない“昭和の大衆エロスの香りはどこから?―

 

吉岡さんの絵といえば、昭和時代っぽいレトロなタッチが特徴だと思うのですが、この絵のタッチはいつ頃定まってきたのでしょうか。また、何か影響を受けた映画などはありますか?

「よく“昔っぽい”タッチで描いてる、と言われるんですが、小さい頃から何を描いてもこんな感じになっちゃうんです。少女マンガらしく女の子を描こうと思って描き始めても、どうも描いているうちに劇画調になっていて(笑)

ただ、実際にも昭和生まれですし、記憶があるかなきかの小さい頃に目にしていた映像、音楽はやはり昭和カルチャーそのものだったので、少なからずそういった実体験、原風景に影響を受けている部分もあるかもしれませんね。

あとは、美大受験の時の予備校時代に出逢った友人たちの影響もあると思います。本当に変な、というか面白いことをたくさん知っている個性的な人が多かったです。

その予備校では、昔の映画のワンシーンを見てなんの映画かを当てるクイズのような面白い講義をしてくれる先生もいました。
それをきっかけに、題材となった古い映画に興味を持つこともありましたね。

それに、映画といえば、自宅近くに川崎市民ミュージアムという施設がありまして、ここではかなり古い映画も上映される事が多く、結構な頻度で通っていたんです。

それである時、神代辰巳監督の『赫い髪の女』を観て、ぐっと来てしまって。
日本ならではの湿度のある、奥ゆかしいエロティシズムはあるけれど、あからさまではないアートっぽい感じに惹かれたんでしょうね。

出演者も、石橋蓮司さん、宮下順子さんなんて、錚々たる顔ぶれですよね。
このあたりの俳優さん女優さんたちは、今の私の絵に多分に影響を与えている部分があると思います」

『赫い髪の女』は、エロを描きながらも芸術性の高さが評価されていた〈にっかつロマンポルノ〉シリーズの中でも名作と名高いですよね。
たしかに、吉岡さんの作品の中にはロマンポルノの宣伝ポスターのようなものも多いですし、当時の俳優さんや女優さんを彷彿とされる男女が出てくる気もします。

 

「そうですね。主演の宮下順子さんもにっかつロマンポルノ映画によく出ていらっしゃいますが、日本女性の奥ゆかしいエロスを本当に上手に表現なさる方だな、と思います。

 


⇡こちらの絵は、官能小説の大家・睦月影郎氏の作品、
『昭和三十年 東京不倫』という小説のカバーに起用された。

私の絵も、エロを描いているとはいえ、全身なにもまとわずに、というあからさまな絵はほとんどないんです。何かしら透けるものを羽織らせたり、ポージングで大事な部分は隠されていたり。

このあたりは、にっかつロマンポルノに代表されるような、日本ならではの奥ゆかしい官能性や湿度のようなものを大事にしたい、という想いが私にもあるからかな、と思っています」

 

―日本の湿った母性的エロスと大好きな母のこと―


まさに日本のエロス=湿度ですよね。
吉岡さんの描く女性には、エロティックなだけではなく、なにか女性的なあたたかさや逞しさ、母性的なものを感じます。
それがある種、男性目線での女性への憧れ的なものに感じられたせいか、最初は男性画家さんの絵かな、とも思ったくらいなんです。
吉岡さんのなかで、官能=母性と結びつくような想いや経験はあるのでしょうか?

 

「もし私の描く女性に母性があるのならば、おそらくそれは母の面影だろうと思います。特に意識していたわけでは全くないのですが、母の顔を知っている人から見たら、私が描く女性の中には母にそっくりな顔や表情のものがあるらしくて(笑)。

実は、大人になったいまでも母とは仲が良く、祖母も含め実家で一緒に暮らしているんです。

私の育った川崎という街は本当に不思議な街で、北部と南部でカルチャーがバッキリと別れています。

南部はわりとやんちゃな人も多くて、外国風にいえば“ゲットー”的な(笑)。北部は結構おとなしめな感じで、うちはちょうどその中間くらいの地域で、両方のカルチャーが混ざりあうようなところにありました。

ですから、特に地域的に荒れた環境ということではなかったのですが、ただ、家庭環境はちょっと複雑でしたね。

実の父親と母は私が2歳の時に離婚、私が5歳の時に母は祖母の勧める縁談で再婚したんです。
それで幸せになってくれればよかったのですが、継父が母に対して、愛情というには少し自己中心的すぎる“強い執着”を持っていたんですね。

今はその方とも離婚し、環境も変わったのですが、当時は、今風にいえば夫婦間のモラルハラスメントに近い状況だったのかな、と思います。

母は外に出て働いていたのですが、継父の嫉妬で思うように外出すらままならない。それなのに家計を支えなくてはならない。
さらには、母親っ子だった私が、母と仲良く会話しているのも彼は気に入らない様子でした。

子供とはいえ、すでに思春期でもあった私には、そういった大人の男女のいざこざが透けて見えてしまっていたのでしょうね。
日を追うごとに『継父から大切な母を守ってあげなくては』という想いが強くなっていきました。

自立していて、強く、私にとっては憧れの存在でもあった母親。

そして、そんな女性に依存し、執着するひとりの男性。

 

もしかしたら私の描く絵に“女神のような女性とそれを崇拝する男性”という構図が目立つとしたら、そこにはなにかしら、母への憧れと同時に男性への痛烈な皮肉があるのかもしれません」


それはすごい経験値ですよね。でもなんだか絵の中にお母様が女神として昇華され、存在している、というのはすごく素敵だと思います!

 

―Part.3へ続く―

ーPart.1を読むー

 


【PROFILE】


吉岡 里奈(よしおか りな)/イラストレーター
1977年・神奈川県生まれ、川崎市在住。
昭和レトロなムードのお色気イラストをテーマに鋭意制作中。
多摩美術大学二部(現・芸術学部)芸術学科 映像コース卒業。
イラストレーション青山塾 ドローイング科11期〜15期修了。
2016年よりTIS会員。

【ホームページ】
rina-yoshioka.jimdo.com

【SNS情報】

〈twitter〉 
@yoshiokarinana

〈Instagram〉
yoshiokarina_33

〈tumblr〉
yoshiokarina.tumblr.com


―告知ー

現在、吉原の遊郭専門書店カストリ書房にて、
《吉岡里奈・原画店頭販売》を開催中!
ぜひお立ち寄りくださいませ。

カストリ書房
東京都台東区千束4-39-3

営業時間:11〜18時
定休日:月(祝日は営業、臨時休業あり)
店舗ホームページ http://kastoribookstore.blogspot.jp

★また、3/17-21は、カストリ書房・京都店にて〈ピンクチラシとお色気雜誌〉をテーマに吉岡里奈さんの個展が開催されます。

打矢 麻理子

SEIReN編集長

打矢麻理子

様々なジャンルの女性ファッション誌や、ビジュアルブック、書籍制作などの経験を活かし、編集者として活動中。2017年に出版社の編集事業局取締役社長を経て独立。クリエイターチーム「Lilith Edit」、メディアプロジェクト「SEIReN」を主宰。

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