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キャンバスに生きる艶然たる女神たち

―昭和お色気イラストレーター・吉岡里奈氏を取材―Part3

《エロチカ・バンブーさん×都築響一さんトークショー記事》でも、
ちょこっとだけお名前の出てきたイラストレーター・吉岡里奈さん。
色っぽくて昭和レトロ、なのにどこかしらポップなお色気イラストの数々……。

近年カルチャー界でも熱い注目を浴びている彼女の絵と、
キュートな彼女自身の魅力を探っていきたいと思います。

90年代のオリーブ少女が“こじらせ”の先に得たもの―

 

前回、思春期の頃の家庭のお話が出ましたが、その頃、カルチャー的な部分ではどんなものに興味を持って日常生活を送っていたのですか?

 

「エロスな絵のイメージが強いかもしれませんが、こう見えても私、十代の頃はオリーブ少女(マガジンハウスの雜誌『Olive』愛読者)だったんですよ。

岡崎京子さんの漫画も大好きでしたし、音楽も当時はフリッパーズ・ギターとかピチカート・ファイヴなどもよく聴いていました。

いわゆる“渋谷系”に代表されるような90年代カルチャーをしっかりと生きていたように思います。

でも、当時もうひとつの潮流でもあった“モテ女子”“イイ女系”には全然行けませんでした“こじらせ女子”のご多分に漏れず、そういった同世代の女の子たちとは通じ合えないんじゃないか、という思いしかなかったですね(笑)」

渋谷系は確かに意外! 勝手に昭和歌謡とかを想像してました(笑)。でも、個展の時もいつも絵の雰囲気に似合うヴィンテージスタイルで華やかに装われているし、お話していても“こじらせ系”には全然見えなかったから、それも意外です。

 

かなりこじらせてましたよ〜。ずっと共学育ちなんですが、男子生徒とはほぼ会話無し、おそらく彼らからしたら空気みたいな存在でしたし、自分が恋愛など出来るとは思ってもみなかった青春時代でしたから。

もし私が当時、女性から見ても綺麗で憧れの存在で、男性からもモテてちやほやされていたら、こういうテイストの絵を描いていなかったかもしれません。

誰もがきっと、人から憧れられるほどの強さと格好良さ、確固たるスタイルを持てたら、と思いますよね。
でも大多数の人にとって、それってすごく難しいことだと思うんです。
難しいからこそ誰かに依存してしまうこともあるだろうし、誰かに常に承認されていないと不安にかられてしまう。
『私なんてどうせ』という卑屈さが、いつしか“媚び”や“依存”という鎧になってしまう。

私も本当は、池玲子さんや梶芽衣子さんみたいなスーパーウーマンになれるものならなりたい気持ちはありました。

ただ、突きつめれば、別にそこまで美しくなくてもいいんです

たとえ誰もが認める美貌や才能がなくても、コンプレックスがあったとしても『私はいまのこのありのままの私を気に入っている。だから幸せ。なにか文句ある?』というような媚びない強さや精神性を持っている女性に憧れている、ということなんだと思います。


けれど、やっぱりそういう強さや自信は自分には無いもの。
無いからこそ、そういう存在に憧れてキャンバスに描きたくなる

   
⇡池玲子さんや梶芽衣子さんは憧れの存在。作品は、年賀状として描き下ろしたもの。

 

私にとっては、〈自分の理想を女性の絵にする〉〈自分には無いものを描く〉という行為そのものが、自分自身の女性としての欲望を満たす代償行為になっているのかもしれません。

だから最近、個展にも男性のお客様だけではなく、女性のお客様がたくさんいらしてくださっているのを目にすると、本当に嬉しいんです。
SNSにコメントをくださったり、投稿をシェアしてくださる方もいて。
私の絵に何かを感じ、共感してくださっている内容のメッセージを頂くと、このテーマで描いていてよかったな、と思います。

“男性にとって都合のいいエロ”に対してのアンチテーゼを込めつつ、それをクスッと笑えるようなかたちに変えて描いていこうとしているのが、私が描くお色気イラスト。
その秘められたメッセージが、もしかしたら少しずつ女性に伝わり始めているのかな、伝わっていたらいいな、とは思いますね。

それに、そういった女性の憧れやこじらせた気持ちも含めて『女って可愛い生き物、愛おしいな』と思ってくださるような精神的ゆとりのある男性のお客様が増えたら、なお嬉しいですね。

そんな大人の男女が増えたら、今の日本にもお色気文化がもっと艶やかに花開くような気がします」

 

―制作の部屋で夜な夜な繰り返される怪談の謎!?―


去年の11
月に開催されたカストリ書房さんでの個展にも、女性のお客様がたくさんいらっしゃいましたよね。
実際、作品のお買取りやオーダーも女性の方が多いとか。
また今年3月にも個展があるそうですが、今は1日どれくらい集中して描いていらっしゃるんですか?

 

「個展前は本当に、自室に閉じこもって1日に最低でも10時間以上は描いています。今もその3月の個展に向けての制作の真っ只中。
今日は取材を名目に、本当に久しぶりに陽の光を浴びました!

そういえば私、作品を描いてるとき、ずっとYouTubeで怪談を流しながら描いてるんです。もちろん、ガチで怖いやつですよ。

   

ただ、描いている時間じゅう、ずっと流しっぱなしなので、もうそろそろ聴くネタがなくなってきてしまいそうなくらい……。

YouTube以外にも、ラジオ、ポッドキャスト、とにかくずっとずっと怪談を流してるので、何かいい怪談ネタがあったら教えてください(笑)!

 

ええーっ! 怖くないんですか? 確かに官能性と怪談というと、少なからずリンクする部分もある気がしますが……。それにしてもなんで怪談なのでしょう?

 

「筆が進むというか、集中できるというか……。
なんでしょうかね、現実逃避の一種なのかもしれません。
でも、ちゃんと怖いんですよ。トイレ行くのもお風呂入るのも戸惑うくらい!
それでも怖い話を聴きたいんです(笑)。

もしかしたら私にとって、エロスな絵を描くこと=ピンクチラシに描かれるような無機質な女性性と存在を“女神的なもの”に変換し、成仏させることなのかな、と。

その念仏を唱える、道筋をつける、といったような場面には怪談が流れるような環境がなぜかマッチする気がします。

というのはまあ、たった今思いついたこじつけに過ぎないのですけれど(笑)。

実家の自室をアトリエにしているので、いざ本当に怖い!となれば、母も祖母も近くにいる、という安心感からこんなことをしているのかもしれませんね。
狭い空間で家族の気配もあるからこそ出来ることなのかも」

 

おうちがアトリエっていう環境、いいですよね。
家族がいると煮詰まらなくてすむでしょうし、作品制作とは全く関係ない日常の会話があったりすれば、息抜きになる部分もあるでしょうし。

 

「そうなんです。前回お話した“問題のある継父”も出ていった今、母と過ごす時間も大切にしたいこともあって、実家暮らしが続いています。

ただ、今のスペースでは大きなキャンバスに絵を描けない、という問題点もあって、いつかはアトリエは別の広い場所に移し、サイズ感の違う絵も描いてみたいです。

それに、将来的にもうひとつ、叶ったらいいな、っていう夢があって。

『女たちの夜』という作品集で描いたような、場末の小さな飲み屋さんをやってみたいんです。私、お酒は飲めないんですけどね(笑)

もちろん絵は描き続けますし、そのお店にも常設で絵は飾っておきたいです。
色っぽい絵を見ながらちょっと懐かしい気持ちになりつつ、一杯飲んで帰れるような癒やしの場所になれば、と思っています」

 

素敵な夢ですね!
もしそのお店が実現したら、私もぜひお邪魔させてください。

 今日はお忙しいところ、取材させて頂き、本当にありがとうございました。

 

ーPart.1を読むー

ーPart.2を読むー

 


【PROFILE】


吉岡 里奈(よしおか りな)/イラストレーター
1977年・神奈川県生まれ、川崎市在住。
昭和レトロなムードのお色気イラストをテーマに鋭意制作中。
多摩美術大学二部(現・芸術学部)芸術学科 映像コース卒業。
イラストレーション青山塾 ドローイング科11期〜15期修了。
2016年よりTIS会員。

【ホームページ】
rina-yoshioka.jimdo.com

【SNS情報】

〈twitter〉 
@yoshiokarinana

〈Instagram〉
yoshiokarina_33

〈tumblr〉
yoshiokarina.tumblr.com

 


―告知ー

現在、吉原の遊郭専門書店カストリ書房にて、
《吉岡里奈・原画店頭販売》を開催中!
ぜひお立ち寄りくださいませ。

カストリ書房
東京都台東区千束4-39-3

営業時間:11〜18時
定休日:月(祝日は営業、臨時休業あり)
店舗ホームページhttp://kastoribookstore.blogspot.jp

★また、3/17-21は、カストリ書房・京都店にて〈ピンクチラシとお色気雜誌〉をテーマに吉岡里奈さんの個展が開催されます。

打矢 麻理子

SEIReN編集長

打矢麻理子

様々なジャンルの女性ファッション誌や、ビジュアルブック、書籍制作などの経験を活かし、編集者として活動中。2017年に出版社の編集事業局取締役社長を経て独立。クリエイターチーム「Lilith Edit」、メディアプロジェクト「SEIReN」を主宰。

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