ポリアモリー/性と生のユートピア
老舗エロス書店「芳賀書店」社長−芳賀英紀氏interview_Vol.3
神保町の書店街に古くからそびえ立つエロの殿堂「芳賀書店」の社長にして
”ポリアモリスト”の芳賀英紀さん。
浮気や不倫が横行し、一夫一婦制の限界も叫ばれる現代日本において
様々な倫理観が揺らぐなか、確固たる意思を持って「愛」を実践している芳賀さんの
“ポリアモリーな考え方”を取材させていただきました。
−まさに、ポリアモリーは、新時代を生きるヒントになりそうな価値観にあふれている気がします。
性愛だけではなく、生きることそのものに直結してくるような意識改革でもありそう。
でもやっぱり、「性」ということに関していえば、とてもデリケートかつ、超個人的な部分。
芳賀さんのようにポリアモリーを実践し、それを公言して生きていくというのは、一夫一婦制のもと、ごく普通の暮らしをしている一般の人たちにとっては、とても難しいことなのではないでしょうか。
「そうかもしれません。
でもいま、僕には悲鳴がいっぱい聞こえてきているんです。
こんなこと言うのはとてもおこがましいんだけれども、僕が積極的にこの価値観を発信することで、少しでもそれを救いたい。
僕がすごく大事にしていることのひとつに、この“根拠のない自信”があります(笑)。
今後も発信し続けることで、やっぱりたくさんバッシングはされるだろうし、信じられないくらい激しく炎上することもあるかもしれない。
それでも、きっと自分はなんとかなるだろう、なんとかするし、と思っている。
不良たちは『ティーンズロード』を見て、不良の軸を知るんです(笑)。
基準値はココで、まあそこから外れたらダメだな、逆にココまではいかないとダサいなっていうね。
いまは、そうした雑誌を始め、軸になるものや指針になるものが減ってきていると思う。
だからこそ、爆発的に広がるとか、急にみんなが一斉にやり始めるっていうムーブメントはないと思うんです。
でも、潜在的にこうしたい、こうしたら楽になれるのにな、という気持ちがある人はいる。
そこに気づくための”ひっかかり”を持ってもらえたら。
それが芳賀書店を引き継いだ時に、これから日本のカウンターカルチャーを支えていこうと決意した自分として担うべき責任だとも思っています。
−悲鳴が聞こえる……。
たしかに、私自身も含めてですが、やはりこの現代日本においてはモノガミーの思想に取り憑かれながら生きている人が多いと感じます。
芳賀さんご自身も、快楽主義者としてまだ完全にポリアモリーの境地に達してはいない、とおっしゃっていましたが、足りない部分、というのはどんなことでしょう。
「はい、おっしゃる通り、モノガミー的な価値観が現代の日本では主流です。
ですから、ポリアモリーを完璧に実践することには無理があると思っています。
例えば、先日久しぶりに会った友人に、
「facebook読んでるよ! 面白いよね。でも書いている内容に〈いいね!〉はできないけど……。奥さんいるからね。」
って言われたんです。
まあ、確かにそうだよね、それが一般的な考えなんだな、と理解はしています。
ですから僕自身、提唱者ではあるけれども、完全に到達できてはいない。
どこかで誰かに迷惑をかけてしまうことがあるかもしれない。危険が伴うかもしれない。
でも、そういうこともすべて理解した上で、それに寄り添ってくれているのがいまの妻。
本当にありがたいことだと思っています。
だから、実は主役って俺じゃないよね。と思っています。
この関係性を認めてくれたのは家内なんです。彼女がいないと絶対に成り立たないよな、と」
−本当に奥様と仲がよくて、SNSでオープンに愛情表現しているのをみても、本当に素敵な奥様だなって思い
ます。それにおふたり、顔、似てますよね(笑)!
顔が似てるというか、なんだろう、発するオーラが似ているというか……。
やはり奥様は芳賀さんにとって、プラトンの「愛の起源」でいうところの魂の片割れ、的な存在なのでしょうか。
「似てますか!? それ、なんかすごい嬉しいな。
彼女は、僕にとっては守護神であり、まさに女神ですね。
先日、家内とパートナーと出演したTV番組で、彼女との馴れ初めがデリヘルだったことを話したんです。
要は、奥さんは元風俗嬢で、僕とはお客さんとして出逢った、ということです。
収録後、『そういうことまでオープンにすることで奥さんや娘さんが何かしら被害を被ることがあるかもしれない』と忠告してくれた知人もいます。
彼のことはとても信頼しているのですが、やはり少しショックでもありました。
僕にとっては、彼女は彼女である。
ただそれだけなのですが、やはり世間的には異質に映るのかもしれません。
当時彼女が抱えていた欠落も、傷も含めて僕は愛しているし、彼女もそれに応えてくれた。
僕は、その傷も欠落も、とても美しいものだと思っています。
これは僕の持論ですが、人は、どんどん欠落するべきなんです。
長所だけ伸ばせばそれでいい。
短所は、愛する人や仲間に補ってもらえばいいんです。
長所が伸びるほどに、短所って目立っていきますよね。
長所との差が開くから。
でも、それはとても美しいことだと僕は思うんです。
その欠落をこそ、きちんと愛したいと思う。
−すごくよくわかります。私も欠落と傷、っていうのがすごく好きで…
男女問わず、一番官能を感じる部分でもあるんです。
その傷や悲しみごと抱きしめたい、って思っちゃう。
私とってはそれが愛である、といっても過言ではないくらいです。
「ほんとにそう。セックスする前と後でどれくらい表情が変わるか。
お互いにどれほど受容し、変容できるのか。それこそが性愛の奇跡だと思うんです。
僕は、職業柄あらゆるエロを取り扱っていますが、パフォーマンスとしてのAVには否定派なんです。
ただ抜ければいい、みたいな。
そこにはなんのロマンも精神性もないじゃないですか。
今の若い子たちがどんどん草食化してしまうのもわかる気がします。
生き方をチェンジするには、まずは、性のカタチを変容させないといけないんです。
女性は、AVの世界で描かれがちな、男に「ヤられる」というような存在じゃない。
どんな傷を負っていたとしても、ものすごい愛情と包容力で男を包み込む、偉大な存在です。
だから、ポリアモリーって、女性こそ主張する権利があると僕は思います。
受容し、変容させていくパワーを持っているのは女性だし、そんな女性に男がついていかないわけがありません。
あらゆる囚われから解放されて、快楽至上主義で性と生を生き切る。
本当に純粋な形で愛を楽しみ、官能を知る。
そんなユートピアが実現すればいいと思っています」
ポリアモリーな発想。
そしてそれを実践する生き方。
いかがでしたでしょうか。
日本のエロスを支え、カウンターカルチャーを牽引する男、芳賀英紀から今後も目が離せそうにありません。
芳賀英紀 Profile
1980年、東京都出身。
神保町の老舗書店「芳賀書店」の3代目。21歳のときに社長に就任、現在も経営に関わる他、
エロコンシェルジュ、SEXアドバイザーなど、エロスに関わるコンサルティングや事業に幅広く携わっている。
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