働き方改革とポリアモリー
老舗エロス書店「芳賀書店」社長−芳賀英紀氏interview_Vol.2
神保町の書店街に古くからそびえ立つエロの殿堂「芳賀書店」の社長にして
”ポリアモリスト”の芳賀英紀さん。
浮気や不倫が横行し、一夫一婦制の限界も叫ばれる現代日本において
様々な倫理観が揺らぐなか、確固たる意思を持って「愛」を実践している芳賀さんの
“ポリアモリーな考え方”を取材させていただきました。
「急に働き方改革かよ!?」というツッコミ、ごもっともです。
私もタイトルに違和感たっぷりです。
でも、芳賀さんのお話を聞いていくと、ポリアモリーの発想って、近年話題の働き方改革を実践するにあたって、とても大きな意識転換のきっかけになりうるものだと思ったのです。
日本では就職は就社なんていわれ、バリバリの外資系企業や先進的なベンチャー・IT企業以外では、会社って何か特別な事情がない限り定年まで働くもの、と考えられてきたように思います。ほんのひと昔前までは。
ところが昨今、そういった終身雇用制に縛られるほどに、会社も個人も苦しくなっていく状況が続いています。
会社はコンプライアンス遵守の観点からも、ブラック企業にならずに一定の収益をあげなくてはならないし、よりコストカットし、利益をあげるために様々な雇用形態を試行錯誤していかなくてはならない。AIなどテクノロジーの進化によって雇用が必要なくなる部署すらあるかもしれない状況です。
そうなると、これまでのように実績の積み上げの出来ていない社員に対し、年齢とともに一律に昇給・昇級させることはますます難しくなっていくでしょう。
また、雇われる側からみれば、企業に尽くし組織にしがみついても、万が一の時に会社が全て人生の面倒を見てくれるわけではないことはわかりきっています。
会社の看板を利用し、ある程度のスキルと人脈を身につけたら、より多く活躍の場を得るためにも、若手〜中堅ほど副業や転職をしたいと考えるようになるのは当然の流れだと思うのです。
こういった事情だけ書き連ねていけば、どんどん個人主義になって寂しい限り……。
そんな印象がなくもありません。
でも、芳賀さんは、これはポリアモリー的な視点からみれば発展的に捉えられる流れだといいます。
「僕はたまたま仕事柄や、今のパートナーシップのこともあって、ポリアモリーについてメディアで話す機会があっても、性のことに特化されてみられがち。
でも、本来ポリアモリーは、複数性愛っていう単一のことだけを指すわけではないんです。
ポリアモリーの活動が盛んなカリフォルニアの基準でいうと、お互いに〈シェアしあい、達成しあい、目指す場所が同じ〉ということ。
その目指す場所をポリアモリーといい、目指している人をポリアモリストといいます」
−なるほど。じゃ、具体的にその目指す場所ってなんなのでしょう
「例えば“仕事”を例にとりますね。
大事にすべきは“いかにクライアントに喜んでもらえるものやサービスを作れるか”ということ。
その喜びが結果的に会社の収益に繋がりますよね。
利益を得たい、業績を上げたい、収益を上げたい、お金を儲けたい……etc.
これってとても利己的な思いでもありますが、これを実現させるには本当に多くの人が喜んでお金を払いたくなるような“価値あるもの”もしくは“感動体験”の供出が必要になります。
その価値を創造していくことが仕事であるならば、利己的である、ということを徹底的に突き詰めていくと、利他と利己がイコールになる。
これが仕事におけるベストなあり方であり、目指す場所だと思っています。
私から公へ、意識を広げていくような感じ、ともいえるでしょう。
ただ、それを具現化させるには、相互理解と広い視野、高い人間性や思いやりが必要になってきます」
−たしかに、これまで主流とされてきた雇用形態は、会社:個で向き合う1:1のモノガミー。
それが、個と個がそれぞれの技術や長所を持ち寄って事業体を成していくポリアモリー的な流れに変容してきていますね。
今はクラウドファンディングやブロックチェーンなど、新しい形のビジネス発想がどんどん生まれてきてい
ますが、それをしっかりとより良い形で定着させていく土壌づくりの時期なのかもしれません。
労働にしろ技術にしろ、占有することよりも“シェア”し合う方向に流れていますよね。
それに伴い、仲間づくりのコミュニケーションスキルや思いやり、人間力といったも
のを、これまで以上に磨く意識が必要になってくるかもしれませんね。
「そうなんです。まさにポリアモリー的なビジネス発想がどんどん出てきています。
それが主流となる時代への準備段階として、いま僕らが意識改革しなければいけないのは、本当の意味で人と繋がっていくための思いやり。
もちろん、単に人に優しくする、っていうそれだけの意味ではないです。
例えば、現代日本では、多くの人が“老いた自分”にコンプレックスをもっている。
本来、年齢を重ねるというのは、経験と知識の積み重ねであり、どんどん満ちていくようなものであるべきなんです。
ですが、なぜかほとんどの人が「老い」に対してネガティブ。
それは、彼らより下の世代、僕たち以下の世代に彼らを敬う気持ちが足りなすぎるからだと思うんです。
年長者の人がいたから今がある、どんなかたちにしろ、今がある。
自分たちが存在している。
人口比率の高さも含め、彼らが今の日本の姿なんです。
それを意識することなく、年長者の存在を否定するようなことが罷り通っている現実があります」
−おっしゃる通り、これまで会社のために『24時間働けますか』と歌いながら馬車馬のように粉骨砕身してきた世代も、いまや重役クラス。
色々と他にも事情や理由はあるでしょうが、ほんの少し時代のペースについていけないくらいで〈老害〉なんて言われて意識高い系の若者から蔑まれてしまっていることがあると聞きます。
「そう。でも、それって、僕らのアンテナが足りないだけなんじゃないかと思う。
真摯に教わることで得るものがある。
何か僕らに足りないことへのヒントをいただけることがある。
アドバイスが今どきじゃないというのなら、それを自分たちが今の時代に合わせてフィットさせる作業を担当すればいいだけのこと。
もちろん、年配者だけでなく、同年代にも若い世代にも教われることがある。
世代も性別も職種も関係ないんです。
そういった、それぞれの長所や個性を生かしあった関係性を構築すること。
それが結果的に、僕は“他人を愛すること”につながるんじゃないかと思うんです」
−そうですね。仕事に対するポリアモリー的な視点というのは、すごくよく理解できた気がします。ただ、ポリアモリーという価値観自体は、やはり性愛や他者への愛に関して取り上げられることが多いと思うんです。
先ほどおっしゃっていた、それが他人を愛することにつながる、というのはどういったことなのでしょう。
「人をパズルのピースである。と仮定しましょう。
僕は、一緒に仕事をすることも、ある種のセックスだと思うんです。
既製品じゃない以上、最初から個々の人間というピースがぴったりしっくりくるなんて奇跡ですよね。
だからどうにかして一致させる。一致させる努力をする。
そこには緩衝がどうしても生まれます。
それを擦り付けながら、削りあいながらピースがうまくハマるようにすり合わせていく。
最初からぴったりはまるなんてないかもしれないけど、それをフィットするようにお互いに努力することが快楽なんじゃないか、と思っているんです。
僕は快楽主義者なので、いまはこれをどうにか実践したいと思っていて、公私ともにポリアモリストとして試行錯誤している最中でもあります」
芳賀英紀 Profile
1980年、東京都出身。
神保町の老舗書店「芳賀書店」の3代目。21歳のときに社長に就任、現在も経営に関わる他、
エロコンシェルジュ、SEXアドバイザーなど、エロスに関わるコンサルティングや事業に幅広く携わっている。
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