“根拠のある自信”を持つ女だけがM男を跪かせる
女王様の不条理な問題提起―Part.5「職業女王様になる理由はあるのか」
SM―それは蜜と毒の混ざりあった世界。
そんな世界を生きる女王様ライター、早川舞さんの連載。
現代におけるSMカルチャーにまつわる多くの問題点について、
また、思うことについて斬ってまいります。
ー第5回目の女王様からの問題提起は、「職業女王様になる理由はあるのか」。
突然ですが、女王様が人手不足です。
「女王様になってみたい」という人が、昔と比べて少なくなっています。
趣味としてやる人は増えているのかもしれませんが、「仕事(専業・副業問わず)としてやってみたい」という人は、私の周りでは減った実感があります。
昔というのは、2000年頃から2000年代前半あたり。
ざっと10~15年前ぐらいでしょうか。
なぜ減ったのか。実際には減ったのではなく、昔のその時期が飛び抜けて多かったのではと私は考えています。
私が女王様を始めたのは2001年ですが、SMは90年代後半頃から深夜番組で取り上げられたり、小説や映画の題材になったり、ファッション界でもボンデージ的なデザインが取り入れられたりと、いわば「一気に世の中に知れ渡り」ました。
もともと曖昧なものであるSMの定義はこの膨張によりさらに曖昧になった上、「SM業界」に足を踏み入れるハードルも低くなって、当時のSM業界には「必要なのは興味だけ! とりあえずどんと来い!」というような、勢いがありつつもユルい空気が流れていました。
女王様という存在には、特にその特徴が顕著に出ていたように思います。
エキセントリックな女性像として扱いやすいゆえにマスコミで取り上げられることが多く、そんなメディアに影響を受けてまた女性が流入してくる……という流れができていたような。
今はその流れが時間をかけて落ち着いて、本来の形に戻ったのではという気がします。
加えて、SMがある程度社会性を得て、楽しみ方が多様化したことも理由として挙げられるでしょう。
当時はS女さんがSMを楽しむために真っ先に出てくる選択肢は、SMクラブやバーで女王様として働くことでした。
仕事にしてしまうほうが相手探しが手っ取り早いし、何より安全だったからです。
ですが今はSMクラブこそまだ男性のものですが、S女として遊びに行けるバーやイベント、交流会などが以前とは比べものにならないほど増えました。
数が増えた結果、業界全体が淘汰され、あからさまに犯罪めいた臭いのする怪しい人々の多くが駆逐され(いなくなったとはいいませんが)、敷居も低くなっています。
前置きが長くなりましたが、ここで今日のお題「(職業)女王様にならなくても(SM的に)幸せになれるこの時代に、女王様になる理由はあるのか」を出します。
どーん。
どこかで聞いたことがありますね。
私なりの答えは、「あります」。
女王様を仕事にすることで、ひとりよがりではない、根拠のある自信をつけやすくなるからです。
SとしてMを支配するのにいちばん必要なものは何か。
答えはこれもSM観と同じように人の数だけあるでしょうが、私は「自信」だと思っています。
MはSの、種類はさまざまあれど「強さ」に惹かれます。
自信のないところに強さ、少なくともMを惹きつける類の強さは生まれません。
職業女王様になると、趣味でSMを楽しんでいるとき以上にさまざまなMに出会います。きらいなタイプとも、とりあえず話ぐらいはしなければいけません。
さまざまな価値観に出会い、それに応じた技術を習得しなければいけなくなるときもあります。
「血の気が引くとはこういうことか」とまざまざと実感するほど焦るときもありますし、ぽっきり心が折れることもあります。
しかし仕事でやる以上は何とか乗り切らないといけないのです。
太宰治はいいました。
「人間のプライドの究極の立脚点は、あれにも、これにも、死ぬほど苦しんだことがありますと言い切れる自覚ではないか」。
これはまあちょっと大袈裟ですし、べつに苦しんでまでSMをする必要はありません。
ですが、予想外の出来事に直面し、頭を働かせて乗り切り、そしてその過程で自分の強みを知ると、根拠のある自信がつきます。
心身の安全性についての知識を身につけようという意欲が高まるのも、とても大きなメリットです。
何も危険なことをしないのならいいのですが、SMをするのなら多少の冒険はしてみたくなるものだと思います。
よほど何か合意がない限りSMは本来安全に行うものですし、何があっても最終的には自分で何とかするという責任感は自信とも密接に結びつきます。
技術の問題なので、どういった環境でも勉強しようと思えばできますが、最初は先達がいるところで学んだほうが感覚が磨かれることもあって、圧倒的に効率がいいです。
ですから、もしも仕事として女王様をしようかどうか迷っている人がいたら、私はこう答えます。
「とりあえず1年ぐらいやってみたら」と。
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