〈“SM”を売るバンド〉と私
女王様の不条理な問題提起―Part.3「SMはバラ売りできるのか」
SM―それは蜜と毒の混ざりあった世界。
そんな世界を生きる女王様ライター、早川舞さんの連載がスタート。
現代におけるSMカルチャーにまつわる多くの問題点について、
また、思うことについて斬ってまいります。
ー第三回目の女王様の質問は、「SMはバラ売りできるのか」?
今日の議題は、「SMはバラ売りできるのか」です。
いやー、「何を言っているのかわからねー」という読者の皆さんの顔が浮かびます。
私は昔、バンドをしていました。
いや一応活動予定はあるので(来年)、今もしています。
もう2年ぐらい何にもしていないけど。
ちょっと変わったバンドで、メンバーは全員女王様。
結成してもう10年ぐらいになるのですが、音楽のジャンルはいまだによくわかりません。ラウドロックかパンクなんだと思う。
一応、ブログでの紹介文はこんな感じです。
大音量でM男をシバく、フェミ系女権ラウドロックバンドSEXLESS!!
女王様が叫ぶ!ギターがむせびなく!ドラムの巨乳が揺れる!
ベースがうねり、トランペットが悶絶する!
ガスマスクありロングブーツありキャットスーツありペニバンありと
只今フェティッシュ増量中!
しかも毎回SMショーつきです!!
来て見て蹴られてSEXLESS!!
※トランペットのメンバーは脱退しました。
これをお読みいただければわかる通り、ウチのバンドは完全にコミックバンド寄りで、音楽というよりSMショーがメインです。
歌詞も「SMプレイ最中に女王様やM男が感じたこと」という、笑いに走ったものになっています。
ちなみにライブハウスなどに電話をするとき、バンド側は大抵最初に「〇〇(バンド名)の××(メンバー名)」と名乗ります。
私は「セックスレスの早川です」と言っていました。
働き始めて日の浅いバイトさんなんかは困ったんじゃないかなあ。
いきなりセックスレスって言われても。
SEXLESSは物販で音源やグッズを売ったりしていませんでした。
では何を売っていたかというと、SMを売っていました。
こんな感じです。
鞭は1発だと300円、10発まとめて買うと2000円になってお得!
ビンタは(女王様の)ノリによっては往復になることもあります!
(お値段据え置き)
つまり、SMのバラ売りです。
これが意外と好評で、一時期は活動資金のほとんどを賄えるぐらい儲けていました。
さて、本題に入ります。
SMはそもそもこんなふうにバラ売りできるものなのか―
できるわけない、と思います。
「思います」と引け腰になったのは、少なくとも「私には」できないからです。
女王様、ご主人さまの中にはできる方もいるかもしれません。
SMはSとMという関係性を目に見える形にしたものです。
関係性のないところに、ぽっと鞭やビンタだけ出しても、それはプレイにはなりません。
SM物販というのは、「SMのわけのわからなさ、理不尽さ、それゆえの滑稽さ」のうわずみだけ抽出してみせた、これもある種の見世物でありお笑いなんです。
とはいえ、抽出されてアクがなくなったからこそ何か感じることができたのか、それとも最初からそのケがあったのか不明ですが(たぶん両方)、この物販がきっかけでその後SMバーやクラブに行くようになったという人もいて、世の中は何がきっかけで新たな価値観が芽生えるかわからないものです。
これに限らず何であれ、「極端」には、反対側の「極端」な存在に気づかせる力というか、作用があると思っています。
反対側の極端なしに、もう一方の極端は生まれない。
そういう意味では、SM本来の精神性からはほど遠い「バラ売り」は、逆に「SMとは何か」に思いを巡らせるきっかけにもなるのかもしれません。
禅問答かよ。
ところで今回、SMのバラ売りについて改めて考えて、結論のひとつとして出てきたのが「大御所はSMショーの時間が長い」ことでした。
SMショーは、こと時間に関していえば大体30~40分ぐらいのものが多いです。
内容はさまざまですが、鞭をしたり、緊縛をしたり、蝋燭をしたり……
というのが、まあ一般的です。
緊縛師といわれる縄での緊縛を専門にする人たちの場合は、緊縛がメインになります。
大御所というのは、SM界での有名な女王様やご主人さま、緊縛師のことです。
彼らのショーは1時間以上、ときには数時間に渡ることもあります。
彼らのショーの時間が長いのは、もちろんオーガナイズする側の希望もあるでしょうが、SMについて深く知れば知るほど、SMは時間やひとつひとつのプレイという単位で区切れないことがわかるようになるからだと思います。
「自分のショーは縛りではなく、関係性を見てほしい」
そう言っていた緊縛師さんもいました。
私は正直なところ、この関係性をつくるというのが苦手です。
それでもSMの世界の片隅で生きているのは、脇道を全力疾走するがごとく、苦手なのを逆手にとって何やかやするのがだんだん楽しくなってきたからだと思います。
落語とか。
そう、先日落語をしたんですよ。
古典落語をSM風にアレンジして。
そのお話はまた機会があればするとして、今日はこのあたりで。
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TEL: (03)6457-7477
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