私の前では全員Mになっておしまい(笑)!
女王様の不条理な問題提起―Part.2「Mは見分けられるのか」
SM―それは蜜と毒の混ざりあった世界。
そんな世界を生きる女王様ライター、早川舞さんの連載がスタート。
現代におけるSMカルチャーにまつわる多くの問題点について、
また、思うことについて斬ってまいります。
ー第二回目の女王様の質問は、「Mは見分けられるのか」?
「女王様は、一目見ただけで人をSかMか見分けられるんですか」というようなことをよく聞かれます。
答えをいうと、私はほぼ見分けられません。
ときどきわかる人もいますが(ちなみに大抵、わかる人の場合はわかりやす過ぎます)、稀です。
しばらく話した後でさえわからないこともある体たらくです。
この間も、SM以外で何年もお付き合いがある方に「私、じつはMなんです」とカミングアウトされ、あんぐり口を開けてバカ面を晒してしまったことがありました。
ただ、「相手がこれをしたらM」と自分の中で何となく決まっている行為が、あるにはあります。
それは、「私ってSとM、どっちでしょうか」と誰かに聞くことです。
こんなことで他人の意見を求めてしまうところが、なんかもうすごくMっぽい。
そのぐらい自分で決めろ。
Sはだいたい誰にも何も聞かなくても、誰かに意見されたとしても、勝手にSになってしまいます。
話が逸れました。
私にはSとMの見分けはつきませんが、私の勤めるSMバー「アマルコルド」に初めて来る方に対しては、「私はMじゃないです!」という強い意志表明がない限り、けっこうな割合で「先んじてMということにしてしまい」ます。
「いやー、SMとかちょっと興味はあるけどー、まだよくわからないんですよねー。えっ、僕、Mっぽいですかね? いやー、そんなことないですよー。ていうか、どっちかっていうとSで通ってるんですけど、会社では。でもそれも何か違うような気がしてて」とか何とか言っている男がいたとしましょう。
そんな御託を並べている間に、私たちは〈その人はMだ〉という前提で話し、ときには縛ったり、鞭で打ったり、人間家具(これについても、詳しくはまたお話ししますね)にしたりしてしまうのです。
すると、その人はいつしか本当にMっぽくなります。
アマルコルドは女王様多めのSMバーなので、ハナからMっ気がある人が来店しがち、というのはもちろんあります。
ですが、そういったことを差し引いても、SMバーという日常離れした場所で、ボンデージにコルセット、ハイヒールに濃い目のお化粧で完全に戦闘体勢、口を開けばエロいのか物騒なのか線引きがよくわからないことばかり飛び出す女王様やM女さんに囲まれていたとしたら……。
実際にSかMかはともかく、「まあ、とりあえず今はMでもいいかな」という気分になるのだと思います。
「段取り八分」という言葉があります。物事は本番の良し悪しではなく、準備をしっかりしたかどうかで八割がた決まる、という意味です。
SMにもこれは当てはまります。
SかMかは、会う前から段取り次第で決まっているような気がしてなりません。
そもそも私は、世の中に根っからS、Mという人は、意外と少ないのではと感じています。
具体的なアクションとしてどう表に出るかはさておき、多くはそのときの状況や相手に応じてSになったりMになったりするのではないかと。
一般的にSとかMとかいうのは、どちらかの性質が比較的強いか、という程度のものだと思います。
どちらかからどちらかに移行する――私たちはよく「S転」「M転」など、「転ぶ」といういい方をします――
そういった際の、ストッパーが硬いかゆるいか、というのも決め手になります。
よく「好きになった人がMだから、自分はSになりたい」などと打ち明けられたりすることがありますが、相手に合わせてその都度柔軟に態度を変えられるというのは、ストッパーがゆるめなんだと思います。悪い意味じゃなくて。
まあ、それ以前に、だいたいSだのMだのってざっくり分けすぎですよね……
これについてもおいおいちゃんと語りたい。
つまり、SとMというのは、わりと流動的ではないかといいたいのです。
ですので、相手がSかMか見分けることは、「見分けられたら便利だろうなあ」と思う反面、少なくともアマルコルドで働くときの私にとっては大事なことではありません。
(自分がニブチンなことのいいわけじゃないよ、ハハハッ! )
大事なのは、「目の前にいるお客さんをMにすっ転ばせるぞー!」という意気込み。そして、そのための段取りを日ごろから整えること。
「どうせ全員Mにしてしまうから、見分ける必要がない」……
とまで見栄を切ることができたら、百獣の王っぽくて格好いいんですけどね。
〈 Gallery Bar AMARCORD(アマルコルド)〉
http://amarcord.jp/
TEL: (03)6457-7477
amarcord_tokyo@yahoo.co.jp
現在、アマルコルドではSMに興味のある女性スタッフを募集しています。経験は問いません。お客さまのお話をきちんと聞ける方であれば、SでもMでもなくてもかまいません。コルセット、ブーツ、キャットスーツなどSMファッションが好きな方も歓迎です。お店の見学も受けつけています。