What’s SEIReN project

SMは人生の極端な縮図である

女王様の不条理な問題提起−Part.1「それで、何が好きなの」問題

SM―それは蜜と毒の混ざりあった世界。
そんな世界を生きる女王様ライター、早川舞さんの連載がスタート。

現代におけるSMカルチャーにまつわる多くの問題点について、
また、思うことについて斬ってまいります。

ー第一回目の女王様の質問は、「それで、何が好きなの」?

今日は、「それで、何が好きなの」問題について語ります。

……と、しょっぱなから大半の皆さまには何を言っているのかわからないであろうスタートを切ってしまいました。

まずは簡単に自己紹介をすると、私は新宿のSMバー(※)で働いています。

(※)SMバーというのは、SMが好きな人やSMに興味がある人が来る場所で、同じくSMが好きな店員、いわゆる女王様やM女さんとお話をしたり、飲食店内でもできるプレイをしたりします。

 

SMバーは、ディープなところからソフトなところまでいろいろあるんですが、私が所属しているのはどちらかというとソフトなほうです。ディープとソフトってどう違うの、という点については、いずれこの連載で詳しくお話しします、たぶん

とりあえずここでは「ソフトというのはプレイよりお話の比重が大きい店」というぐらいに理解してもらえれば結構です。

ウチは系列店的なお店にSMクラブもあるし(クラブというのはプレイがメインのところです)、ソフトだからといって、プレイをまったくしないわけではないんですけど。

この連載では、私がSMバーで働いているときに、あるいはSMそのものについて感じたことや考えたこと、悩んだことをゆるく語っていこうと思います。

私は今、「そもそもSMって何なの」という根本的な部分の説明をすっとばしました。

 意図的にです。

なぜかというと、これには人の数だけ答えがあって、一概には「これがSMなんですよ」とはいえないからです。私自身は「表に出る行動としてはどんなことをしているにせよ、当事者同士が『相手を支配している』『相手に服従している』と感じていればSM」という定義を一応持っています。

この考え方は多数派に入るほうだと思いますが、それでも全員には納得してもらえないでしょう。大筋では同意できるがもっと細かくこだわりたい、その細かさこそSMの大事なところなんだ! という人もいます。

では、「それで、何が好きなの」問題に話を戻しましょう。

 この「SMとは何か」という問いに答えを出すのは難しいんですよ! 

それをを訴えたくて、今回このお話を連載第1回めのテーマにしました。

私は初めて来店するお客さんには大抵、自己紹介のような簡単な会話の後に「それで、何が好きなの」と尋ねます。

もちろん、SMバーでの質問ですから、SMにおいては「何が好き」かという意味です。好きなものはそれぞれのSM観に直結します。

少し幅は狭まりますが、これは「SMとは何か」という問いの変化球ともいえます。

答えとしては、好みのシチュエーションや相手との関係性、フェティッシュな願望についての説明が返ってくることが多いです。

ロウソクピアッシングなど、ある種の形として目に見えるものになったプレイだと答える人もいます。

でもこんなふうに尋ねるたびに、「こんな目の粗い質問をしていて本当にいいのだろうか」と自己嫌悪にも近い心境に陥ります。

お前自分で聞いておいて何なんだって話ですが……。

 

SMへの希求は、なくても問題なく人生を送っていけます。むしろ、まだまだアンモラルで倒錯的な趣味だとみられる風潮もあり、あると邪魔だったりします。

ところが、それが承認欲求にまで結びついて七転八倒している人もいます。

あと、場合によっては怪我もします。

SMバーに来た人には、「おぬし、なぜこんなけもの道を選んだのじゃ……」と言って肩を叩きたくなります。

それでもSMを求めてしまうのは、大袈裟なことを承知でいいますが、“SMのプレイや関係性は人生の極端な縮図だから”だと思います。

相手を縄できつく縛り上げられる最中にこそ、自分なりの最大限の優しさを発揮できる人。縛られることで相手からの気づかいを感じ、解かれた直後には無性に寂しくなる人。モノのように扱われ、改めて自分が独自の身体性を持つ唯一無二の人間なのだと気づける人……。

人生のすばらしくも面倒くさくもあるエッセンスが、ときに胸焼けするぐらい凝縮されているのです。

何の経験もないままに好奇心に駆られてやって来るお客さんも多いですが、経験なんてなくても、こういうことを敏感に感じ取る人はいます。

私は現代のSMはとくに、もはや単なる性癖や嗜好という面だけで語れるものではなく、“幸せに生きる指針にできる縮図” をひと目なりとも見たい、ともがいた結果、生まれるものではないかと考えています。

もがきにもがいて何回転かして倒錯的になってしまったり、歪んだりしまった結果現れるのが、SMという行為や関係性なのではないかと。

傍目にはどんなにいびつに映り、本人もその扱いづらさに手を焼いたとしても、それぞれにとってかけがえのない歪みです。

そうやって生まれてきたものを、会って5分の「それで、何が好きなの」という質問にざっくりまとめて尋ねてしまうこと。

それってとてつもなく失礼なことなのではとか、答えの中からこぼれ落ちてしまうものも多いのではないかとか、いろいろ考えてしまうのですが、酒を飲むと全部忘れます。

※アマルコルドの場合はお客さんがM側になる、つまり責められる側のプレイです。ですがM男性のみに向けた店ではありませんので、お話を楽しみたいS男性のお越しもお待ちしております。

 


〈 Gallery Bar AMARCORD(アマルコルド)〉

http://amarcord.jp/
TEL: (03)6457-7477
amarcord_tokyo@yahoo.co.jp

現在、アマルコルドではSMに興味のある女性スタッフを募集しています。経験は問いません。お客さまのお話をきちんと聞ける方であれば、SでもMでもなくてもかまいません。コルセット、ブーツ、キャットスーツなどSMファッションが好きな方も歓迎です。お店の見学も受けつけています。


 

早川舞

SM女王様/ライター

早川舞

女王様と編集者の二足のわらじを経て、SM・フェティッシュ分野を得意とするライターに。 現在、新宿のSMバー「アマルコルド」に所属。 ツイッター:https://twitter.com/maikitter ブログ:http://bc00shinjuku.blog19.fc2.com/

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