Borsalinoー頭上に輝く男の美学
ー「ボルサリーノ」ブランドの危機に想うことー
すでに昨年末のお話ですが、あの"ダンディズムの象徴"、ボルサリーノハットで名高いイタリアの名門帽子店・Borsalino社が破産申請をしたとのニュースが……。
“マフィア・スタイル萌え”の癖がある私としては聞き捨てならないトピックです。
禁酒法時代、フレンチ・コネクションの世界、チャールストン……♡
大好物な時代の素敵な殿方はみんな被っているあのアレ。
嗚呼、やっぱりBorsalinoさんには倒産なんて言わずに頑張って欲しいですm(__)m
淑女のみなさま、こんにちは。
師走の半ば頃のことでしょうか、何気なくネット記事を眺めていたら、衝撃的なニュース記事が飛び込んできました。
イタリアの帽子メーカー、Borsalino(ボルサリーノ)社が破産を申告。
1857年の創業以来、150年もの長きに渡って世界中で愛されてきたブランドだけに、様々な波紋を呼んでいるようです。
ボルサリーノハットといえば、古くは名優、ハンフリー・ボガードやアラン・ドロンなどが公私ともに愛用したことで知られています。
近年でもジョニー・デップやレオナルド・ディカプリオ、日本でもキングカズこと三浦知良氏や政治家の麻生太郎氏が愛用されていることでも有名ですよね。
商品としての世界に誇るクオリティの高さと実用性はもちろんですが、それ以上に、映画の中に出てくるボルサリーノハットは、まさにダンディを象徴するアイテムであり、ロマンチシズムを刺激する小道具。
まさに“マフィアスタイル”フェチには堪らない逸品です。
そんなボルサリーノの魅力が炸裂していたのが映画、その名も「ボルサリーノ」ではないでしょうか。
「太陽がいっぱい」のアラン・ドロンが製作&主演、「気狂いピエロ」などのゴタール監督作品にも出演していたジャン=ポール・ベルモンドの2大国民的スターの初競演となったこの作品は、公開当時フランスでも大ヒットしたそう。
舞台は1930年代のマルセイユ。
禁酒法、フレンチ・コネクション、ギャング、そしてチャールストン……。
ドキドキしちゃうような魅惑の世界。
刑務所から出所したシフレディ(アラン・ドロン)は、女を巡って、カペラ(ジャン=ポール・ベルモンド)と争いに。
その結果なんだか友情が芽生えたギャング2人は手を組み、名コンビとなって活躍。大物ギャングを陥れ、ついにマルセイユの街を牛耳ることに成功。
しかし、両雄並び立たず、ついに悲劇が襲う……。
と、ココまで書いただけで、「ん? なんかその話知ってるような……」
そんなあなた、さもありなん、です。
この、スーパーありがちな少女漫画的かつ王道なストーリー展開は、東映ヤクザ映画から宝塚歌劇まで、日本でも多くの作品のモチーフとなっています。
そんな“ギャング映画あるある”の王道ともいえるこの『ボルサリーノ』。
ミステリアスなストーリーを追うわけでもなければ、難解な哲学的教訓則でもない。
個人的には、ただただ、男のロマンと野心、粋と儚さを慈しむための名画だと思っています。
その象徴としてのボルサリーノ・ハットであり、タイトルなのでしょう。
ハットに葉巻、ビリヤード。
相手を殴るまでの一呼吸。
絶妙なフィット感のスーツ。
すべてが“美しい型”として成立している“男の美学”が全編に散りばめられています。
カトリーヌ・ルーヴェルの不思議な髪型(ボブなのか、シニヨン+後れ毛なのかわからないけど、とにかく帽子がオシャレにかつフィット感よく被れそうなヘアスタイル)や被っている女性用の帽子もほんとに素敵!
この、映画『ボルサリーノ』ですが、私が探しに探しまくっていた15年程前、2000年代初頭にはどうにも入手困難で、ネットオークションでレンタル落ちのVHSを購入したのでした。
(しかし、再生機器なき今、もはやどうやって観るんだVHS……(T_T))
なぜそんな必死にこの作品を観たかったのかというと、シナリオ学校の課題シナリオを描くための参考にしたくて探していたのです。
当時出版社で雜誌編集で激務に追われていた私は、唐突に「シナリオ書いてみたい」と思い立ち、休日を使って表参道にある某シナリオ学校に通っていました。
ただでさえ、平日は徹夜ばかり、という状況でなぜそんな暴挙に出たのかは、今となっては謎でしかありませんし、黒歴史もいいところです(笑)。
そこでシナリオの課題として、とある週に出されたのが〈帽子〉というテーマ。
要は〈帽子〉をモチーフに原稿用紙20枚くらいで1週間以内にシナリオにしてね、という課題です。
その前の週が確か〈マッチ棒〉というテーマで、その時は、ストリッパーとチンピラの恋物語を描きました。
そのとき、担当してくださった年配の先生に「あなた、描写がリアルね!本当にストリッパーのお仕事経験があるの?」と真顔で聞かれたことでちょこっと気を良くしていたのもあり、今回もその路線で、と思ったのでしょう。
〈帽子〉をモチーフにするなら、今度は「昭和残侠伝」みたいな古いヤクザ映画の物語をベースにしつつ、フランス映画っぽく、湿度低めの不条理路線でストーリーを描こう、と思い立ったのです。
戦後の闇市でともに這い上がり、運命に翻弄されるふたりのジャパニーズ・ギャング。
ー花に嵐の喩えもあるさ、サヨナラだけが人生さー
そんな日本的心情や粋なものをテーマに、男同士の絆の象徴としてボルサリーノハットをうまく使えないかな、と思ったのです。
結果、壮大なテーマを思い描きすぎて締め切りに間に合わず、なんだか別の話を書いたような曖昧な記憶とともに、このDVDもお蔵入りになっておりました。
随分話がそれてしまいましたが、そんなわけで、15年前にはとっても入手困難だった映画『ボルサリーノ』。
2014年にデジタルリマスター版が44年ぶりに上演されたことで、今はDVD化もされている模様。
この世界観が好きな方にはぜひオススメしたい作品です。
ボルサリーノ=男の勲章。
男性性や権威の失墜が叫ばれて久しい昨今、その象徴であったブランドにも危機が訪れる、という皮肉な展開となってしまいましたが、どうにか銘品・ボルサリーノの伝統を潰えさせず、ブランド存続への道筋がつけば、と願うばかりです。