What’s SEIReN project

全ての事象は、曖昧の積み重ね。

落宴クルージング Story001:リラ

これは私自身が日々の中で感じたことなどを 架空の登場人物たちをフィルターにして綴るストーリー

「少し違和感のある ゆるくて曖昧な世界」に ふわふわと身を委ねてまいりたいと思います

落宴クルージングへようこそ



※実際の出来事や人物との関連はありません

「お待たせいたしました」

おそらく無表情のウエイトレスによって運ばれたコーヒーカップ
添えられたミルクを黒い液体のなかにゆっくりと垂らしながら
この記憶も年月が経てば きっと曖昧なものになるだろうと自らを励ましていました

液体の底から少しずつ白い靄がウネウネとマーブル模様を描くのをじっくりと眺めていると
時間の流れをさほど気にしないで済みますし
身の回りに起こる事象も
普段なら耳障りな雑踏の音でさえも
何だかどうだって良くなってくるものです

できるだけ早く 身体中の余計な水分をとばしてしまいたい
ふと馬鹿げたことを考えてみたりもしました
そんな姿はもちろん、誰にも見られたくない
けれど独りでひっそりと涙したところで 余計に悲しみの海が広がるだけです
底なしの哀れみの海の中になんて溺れたくはありません

「自然体でいましょう」 って あなたは口癖のように言っていましたが
それを意識した時点で“ぎこちない自分”が形成され始めているものでして
気づいた頃にはもう戻せない位
時の流れは無常にも通り過ぎてゆきました

私が生まれるずっと前から
静かにオレンジの光を照らしていたであろう豪華なシャンデリア
煙草はどちらかと言うと苦手なのですが
アンティークのインテリアに囲まれた此処では何故か
その香りも許せてしまうのだから不思議なものです
そして あなたが煙草を燻らせるのをぼんやりと眺めるのも好きでした

外界とは少し異なる時の流れを感じさせてくれるお気に入りの場所も
いつからか 昔のアルバム写真のように
どこか色褪せて見えるようになりました
まぁそれもノスタルジック、素敵な想い出と致しましょう
胸が締め付けられる感覚もそんなに悪いものでありません

月日の流れなんてものは「あっという間だねえ」だなんて話題も頻繁に口にはするけれど
或る事象に心を煩わせている時には途方もなく長く感じたり
そうかと思えば 想いを寄せる人と過ごすような時間は瞬間的だったりするものです

時間は誰しも皆 平等である
そんなふうに言う人もおりますが
時の流れほど曖昧さを感じることはありません

一分一秒
その感覚は人それぞれ違うのですから

何て残酷なのでしょうね
かつてあっという間に感じていたあなたとの日々が
今ではこんなに重くのしかかるなんて

すっかり溶けかけたどろどろのアイスクリームを
小さな銀スプーンですくいながら
ニコニコとこちらを見ているあなたがぼんやりと脳裏をよぎりました

それは既に今の私にはもう何も響くものではありません
いつから私は その笑顔を真っ直ぐに見つめることができなくなったのでしょう

私はつい 伏し目がちで小さく溜息をつきました
愉しくもないのに笑える筈もないですから

「全ての事象は曖昧の積み重ね」
そう言い聞かせて ぬるい珈琲を一気に飲み干し
私は店を後にしたのでした


執筆者:KAE(ブランドディレクター)

・High-Me TOKYO
http://highme.tokyo/

・WILD FANCY
http://wildfancy.tokyo

KAE

ブランドディレクター

KAE

1984年生まれ。 2006年 アクセサリーブランド【High-Me TOKYO】を立ち上げる。 2015年 妄想や空想を装飾品にしていく1点物のヘッドドレスアート【WILD FANCY】をスタート。

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