手繰り寄せる眼差しで、あなたのすべてを奪いましょう……
《視覚殺し》が本当に奪うものとは何か 第四夜
仮面女子のカルチャー担当、桜雪です。この連載でお送りするのは、私の心の奥にある一番センシュアルな部分にひそめていた秘密の物語たち。ほんの少しだけ、古い時代の出来事にのせてお届けします。
古い時代の物語……
東西の異文化が交合う美しの聖地
海峡に佇む難攻不落と謳われた根城
“コンスタンティノポリス”
其の地には血の物語が幾重にも塗り重ねられて居る
今宵は此の地にて栄華を誇る、ビザンツの時代へと
御案内致しましょう―
彼の血塗られし皇帝バシレイオスⅡ世
幾千の捕虜の眼を潰し、敵国に送り返した冷酷の業から
“ブルガロクトノス”
即ち、ブルガァル殺し――と称された
100人のうち1人は片眼を潰され、
他は両眼を潰され、
故郷を目指し、暗闇の中を歩く群―
――其れは、現世と思えぬ煉獄のパノラマ
眼を潰す、抉る、
即ち、《視覚殺し》
此れは、在る種のテンプレェトである
――然り、古代の悲劇
両眼を抉り取られた最期のユダ王”セデキヤ”
――然り、物語の喜劇
最期に眼を抉られるシンデレラの意地悪な姉
《視覚殺し》が隠喩するものとは何でありましょうか
《見る》と云う事は
“=視覚的情報を知覚する”と云う事
“=脳内に世界を取り込む”と云う事
人間が何かを《見る》時
見たものを取り込んで居るのです
拠って
“君の瞳に吸い込まれそうだ云々”
と宣う台詞は何とも滑稽
本当に取り込まれて居るのですから
眼と眼が合ってどきりとするのも
其の瞬間、
相手に取り込まれる衝撃なのでしょう
更に人間は
“見られて居る”と感じるだけで
性善で在ろうとする―
たとえそれが生きた人間の眼で在らずとも
眼のモチィフですら
其処に在るだけで
《無制約のイドの底》へ沈まぬ様に自らを呪縛する
《見る》とは、呪術の如く強力な力
《視覚殺し》とは、
其の力を奪うと云う意を孕んで居たのではなかろうか
ともすれば――
史上の《視覚殺し》を行う残虐者は
誰よりも視覚の力を怖れた臆病者なのでしょうか
ともすれば―
恋人たちが《視線を交わして》居る時
其れは、
甘美な瞬間の様で
実は
お互いを《殺し合って》居るのでしょうか―
今夜もゆっくりおやすみくださいませ
また、お逢いできますことを……
最強の地下アイドル：仮面女子
桜雪
2010年に東大受験生アイドルとしてデビュー。東京大学入学後は心理学を専攻。仮面女子としての活動の他、バラエティ番組や報道番組に出演。
