紡がれし言葉の深淵に寄り添う、永遠の孤独——
“言葉“が招くパラドックスと至高の快楽 第三夜
仮面女子のカルチャー担当、桜雪です。この連載でお送りするのは、私の心の奥にある一番センシュアルな部分にひそめていた秘密の物語たち。ほんの少しだけ、古い時代の出来事にのせてお届けします。
古い時代の物語……
神の御代、古代ギリシアの地—−
或る古代ギリシアの神話
其れは神々の渦巻く欲望の衝突から始まり
絶世の美女”ヘレネ”を巡り
堕ちて逝くトロイアが悲劇的に描かれた
後に、古代ギリシア人は自らをヘレネの子孫であると信じ、
《自》民族を”ヘレネス”と名付け
対して
喋々と不可解な言葉を発する《異》民族を
“バルバロイ”と名付けました
此の歴史的記述こそ
可笑しい様で悲しい、
《言葉》の本性
《言葉》は共同体を生み出し、
共同体を繋げる要素で在りながら
それと同時に実は
共同体と云う”概念”をも生み出して
混沌から一部の人間を切り離す《孤独の営み》であると云う事
―其れが《悲しい》パラドックス
胎児や乳児であるほんの束の間、
人間とは混沌の世界で呼吸する縁のない生命体でありー
決して《孤独》を感じる事は御座いません
しかし
母から切り離された後、
《言葉》を知る度に
温かい混沌の中で
《自我》と溶け合って居たものが
切り取られ――
削がれ――
《孤独》になっていくのです
精神医学者フロイト曰く、
人間の精神は”意識”と”前意識”と”無意識”の三層を成すと云うー
“無意識”とは
―精神の何処か奥深く、
渾々と湧き出る泉―
其処を覗き込むと
凡ゆる色の絵の具が混ざった水の様な漆黒
此処もまた、混沌の世界―
其処から汲み取られた僅かな《潤い》だけが
“意識”に昇り
更に其れを刳るナイフこそが《言葉》
排出された混沌の《欠片》
歪な《境界線》
《言葉》は
幾ら飾り立てたとて
華やかに装ったとて
其の美は造花の美しさに過ぎぬ
其れを知ってか知らずか
《言葉》でコミュニケェトする人間は
繋がる為に分断するー
人間は
孤独を恐れるが故に、
孤独から逃避する為の、
《孤独の営み》を止められない―
―其れが《悲しい》パラドックス
故に人間というものは
《言葉》が不要となる官能の瞬間―
《境界線》を越えて奥へ奥へと潜り込み、
果てない混沌の闇を覗き込む瞬間―
万物が溶け合う原点に回帰する瞬間―
《孤独からの解放》を
《至高の快楽》を味わうのでしょうか
今夜もゆっくりおやすみくださいませ
また、お逢いできますことを……