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狂気を纏った〈美〉と脳髄の快楽

—阿修羅の如き美への妄執—   第二夜

仮面女子のカルチャー担当、桜雪です。この連載でお送りするのは、私の心の奥にある一番センシュアルな部分にひそめていた秘密の物語たち。ほんの少しだけ、古い時代の出来事にのせてお届けします。

古い時代の物語……

 

1000年以上の時を遡ると、

其処に居られしは、
玄宗皇帝の寵姫、後に”傾国の美女”と謳われたーー
“楊貴妃”

髪は雲の如く柔らかく
顔は花の如く美しく
金の鈿は歩く度に揺れ――

楊貴妃の《美》を謳う数多の言葉たち

 

 

しかし

《美》とは一体何者でありましょう

 

嘗ての中国には
三寸金蓮という言葉が在りました
小さな足で蹌踉蹌踉と歩く姿を《美》とし、
女性の足骨を砕きました

 

或る共同体では――
身体的な豊かさこそを《美》とし、
肥えることを強いました

 

或る共同体では――
女性の唇に穴を創り、皿を入れる慣習の中で
その穴の大きさを《美》としました

 

 

《美》とは時に狂気をも孕み、
また、いくつもの顔を持つ

阿修羅の様なものなのです

 

 

其々の《美》を感じる刻、
人間其々の中で何が起きているのでしょう

 

人間の脳には《美》を感じる部位があると云われます

 

其れが絵画であろうと、
音楽であろうと、

《美》を感じた刻、
強く感じれば感じる程、
血流量が増加し、
活発化する部位――

 

其処は脳の中で最も未知の領域

 

そして
其処は人間の快を司る領域

それでは
《美》は人間の快楽なのか

 

単なる快楽では御座いません

 

其処が壊れてしまった人間に起こるのは

衝動の脱抑制ー性欲、薬物摂取、アルコォル摂取の過多――
また、共感能力の欠如

 

《美》を感じるアビリティとは
人間が人間らしく人間と共に生きていくためのアビリティなのです

 

科学では必要とされる《美》を感じるアビリティが
文化の中で狂気に変質すると謂うアイロニィに

どうやら人間は呪われている様です

 

彼の《美》に呪われた皇帝は

今宵も蓮の花の床で《美》を愛し、

短い春の夜を惜しみ、

日が高く昇るまで眠ることでしょう――

 

貴方様も《美》の呪いには
どうぞ、お気をつけて――

 

 

 

今夜もゆっくりおやすみくださいませ

また、お逢いできますことを……

 

 

桜雪

最強の地下アイドル:仮面女子

桜雪

2010年に東大受験生アイドルとしてデビュー。東京大学入学後は心理学を専攻。仮面女子としての活動の他、バラエティ番組や報道番組に出演。

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