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そのとき女は万能感を手に入れる

女王様の不条理な問題提起―Part.4「女王様はアレがほしい」

SM―それは蜜と毒の混ざりあった世界。
そんな世界を生きる女王様ライター、早川舞さんの連載。

現代におけるSMカルチャーにまつわる多くの問題点について、
また、思うことについて斬ってまいります。

ー第四回目の女王様からの問題提起は、「女王様は『アレ』が欲しい問題」。

しょっぱなから品のない話で恐縮ですが、「アレ」がほしいとよく思います。アレとはちんこです。

多くの男性には「なんだ、セックスしたいのか」と勘違いされます。

いや、違うんだ、そういうことじゃないんだ。

 

以前、私が勤めるSMバー「アマルコルド」の昔のママとも、男性とのこの認識の違いを笑い話にしたことがありますが、だいたいの女王様の「ちんこがほしい」は、往々にして物理的に生えてきてほしいという意味です。

 

ちなみに私がどれだけほしがっているかというと、泥酔したときに「なぜ私にはちんこが生えていないんだ」と喚いたことがあるそうです。言ったことだけは覚えていますが、大声だったとは思わなかった。迷惑かけてすみません……。

 

ちんこがほしい理由は、「侵入する側」になりたいからです。

女性の体は、これはもう男女差別だとかではなく、現実として、「受け入れる側の構造」になっています。この「受け入れる」ということと、Sであることの相性がよくないのです。

 

SMの定義はいろいろあれど、Sの基本は、「受け入れる」とは正反対の能動性にあると私は思っています。自分の体に、「受け入れる」こととは対称的な男性器(しつこいようですが、あくまでも「身体のつくりが」という意味で、その性質を使うかどうかはまた別の問題です)があることは、ちょっとした憧れのようなものなのです。

 

ちんこ、生えてないけどほしい!

そんな夢を叶える便利グッズが、じつはあります。ペニスバンド、いわゆる「ペニバン」というやつです。ディルド(写真参照)を組み込んでベルトで装着する、ポータブルなちんこです。ディルドとベルトが最初から一体型になっているタイプもあります。

 


⇡アマルコルドにあるディルドの一例。これを専用のベルトにはめて「ペニスバンド」、いわゆる「ペニバン」にします。ディルドの大きさはさまざまです。左側がなぜところどころ黒ずんでいるのか、その理由は私にもわかりません……。

 

これを装着すると、女性でも「挿入」ができるようになります。
女王様がペニバンをつけるときは、M男性のアナルに挿入することが多いですが、アマルコルドではそういったプレイはできないので、主に「女王様がつけて遊ぶ」「それをM男性が咥える」だけになります。

ペニバンを装着すると、気持ちの上でも変化が起こります。

すごい万能感が湧き上がるんです。

 

一時的にとはいえ、見た目も含めて両性具有の存在になったのです。

「侵入する側」になったことに加え、「受け入れる側」の機能も変わらず持っているわけです。脳から何か気持ちよくなれる物質が出ます。

軽い躁状態になり、「私って最強では」「世界が滅びてもひとりで生きていける」などの思考が頭を駆け巡ります。

 

これは私が女王様だからというわけでもなく、同じように感じる女性は少なからずいます(SMバーで、話の流れでペニバンをつけることになった非・女王様女性を対象にした自分調べ)。おそらくこの感覚は、多少の気分の落ち込みぐらいなら軽く吹き飛ばします。「最近ちょっとヘコみがちで……」という女性は、一度SMバーに行ってペニバンを装着させてもらうと元気になれるかもしれません。

ペニバンセラピー! ペニバンで元気になる!

 

そういえば以前、アマルコルドで「ペニバンナイト」という、M女性スタッフ含め全員がペニバンをつけて接客するという異様な光景のイベントがありましたが、あのときのテンションはぼくたちみんなおかしかった。

 

では逆パターン、男性が男性的な身体を持った状態で、女性的な特徴を持つことについてはどうでしょうか。

女装子(じょそこ)さん(女装愛好者の男性のことを、愛着を込めて我々の世界ではこう呼びます)が男性器の存在を否定しないまま、つまり男性器を無理に隠そうとしたり、男性器に違和感を持ったりしないまま女装をするときの気持ちは、万能感とはまた少し違うようです。そのあたりはまだきちんと考察しきれていないので、具体的なことはまたいずれ。

 

さて、ここまで私は女王様「が」ちんこがほしい問題について話してきました。が、女王様「に」ちんこが欲しい、つまり「女王様にちんこが生えていればいいのに!」と願う人たちもいます。

M男性の中には、「ペニバン姿の女王様が死ぬほど好きだ。いや、いっそ拝みながら死にたい」とか、「そんな女王様にプレイ、もしくは調教してほしい」とか、挿入する、しないに関係なく、見る対象としてペニバン女王様を好む人がいるのです。

ひどい話になると、SMバーにふらっと遊びに来た女性が試しにペニバンをつけた途端、隣に座っていたM男性が一瞬にして骨抜きになり、床にひれ伏してしまうなどの例もあります。

「誰でもいい感」がいっそ心地よいです。

 

「強さ」にもいろんな種類がありますが、M男性はみんな女性の強さに敏感で、それに惹かれます。彼らも、女性がペニバンをつけることによって得る万能感を、きっと受け取っているのだと思います。

 

 

 


〈 Gallery Bar AMARCORD(アマルコルド)〉

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TEL: (03)6457-7477
amarcord_tokyo@yahoo.co.jp

現在、アマルコルドではSMに興味のある女性スタッフを募集しています。経験は問いません。お客さまのお話をきちんと聞ける方であれば、SでもMでもなくてもかまいません。コルセット、ブーツ、キャットスーツなどSMファッションが好きな方も歓迎です。お店の見学も受けつけています。


 

 

 

早川舞

SM女王様/ライター

早川舞

女王様と編集者の二足のわらじを経て、SM・フェティッシュ分野を得意とするライターに。 現在、新宿のSMバー「アマルコルド」に所属。 ツイッター:https://twitter.com/maikitter ブログ:http://bc00shinjuku.blog19.fc2.com/

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