漆黒の夜は馥郁たる梅の香り
−Bar 〈HOWL〉の思い出とデニーさんのこと Part.1−
今はもうなくなってしまった外苑前のBar、HOWL。
真っ黒な扉、ギンズバーグの詩、アントナン・アルト―のポートレート……
HOWLでの夜とデニーさんの作る《星子》のこと。
飲み歩かなくなった今でも、ふと思い出してしまうくらい素敵な夜の思い出です。
淑女のみなさま、こんばんは。
みなさんは、お酒は好きですか?
私は大好きです。
その香り、色、シチュエーション、空間、存在そのものが好き。
まだ小さな頃、食事が終わってしばらくすると、父がどこからか茶色くてキラキラするいい匂いのものを持ってきて飲んでいました。
飲み干した後に氷がカシャン、と鳴るのを合図に『ちょっとちょうだい』といって、氷のまわりに残った琥珀色の液体を手首につけていたのを思い出します。
この、いい匂いのする気持ちよさそうなものを、母が香水をつけるときのような真似事をして、ひとりでドキドキしていたものです。
そんな思い出があったせいか、特に琥珀色のお酒に思い入れが……
だから、というわけではないのですが、それまで甘いカクテルはどちらかといえば苦手な方だったのです。
けれど、あの夜デニーさんのつくる梅のリキュール酒〈星子〉を頂いてからは、キラキラとした光を放つ梅のお酒も大好きなお酒の仲間入りをしました。
⇡先日、久しぶりにデニーさんとFacebookでやり取りをし、こんな素敵な書籍が出たことを知り、早速お取り寄せ(^^)
今でこそたしなむ程度になったお酒ですが、過去にはここに詳細が書けないほど羽目を外す飲み方をしていた私……(笑)
そんな幼稚な飲み方をしていた7−8年前のお話です。
神宮前2丁目の界隈に、〈bonobo〉という小さなクラブを中心に様々な飲み屋さんが立ち並ぶ通りがあります。
当時、たまたまそのあたりで道に迷っていたときに入った〈ワンタンバー〉という小さなお店。
そこは、まるで映画の登場人物のような面白い常連さんが謎に屯する不思議な空間。
私は友人と、まるで放課後の女学生のように仕事が終わるといつの間にかその街に立ち寄るようになっていました。
立ち並ぶ近くのお店を行ったり来たりしては、酔い覚ましにお散歩したり……
⇡神宮前2丁目でよく飲んでいたアブサンのポカリスエット割り(笑)
そんな或る夜のこと。
ちょっと歩くと外苑の表通りに出るのですが、そこに、どうにも気になる真っ黒な門がまえの扉があるのです。
ガチャガチャとした大通りなのに、そこだけがとても異質な静けさ。
とはいえ、中からは暗くてあたたかな光がこぼれ、お客さんもいる様子。
いいなぁ、カッコイイな。中はどんななんだろう……。
ふわっとその黒い扉を開けてしまいたい誘惑に駆られたものの、なぜだか『ここは、もっと素敵な夜に来よう!ここに来るって、最初にちゃんと決めてからお邪魔してみよう』と思ったのです。
こうして、その黒い扉のお店が気になりつつも、その扉を開けることなく、いつもの神宮前二丁目のバーで過ごす日が続きました。
そしてしばらくたったある夜、いつものバーで飲んでいたとき、『そうだ!今日こそあの黒い扉を開けてみよう』と思い立ったのです。
少し姿勢を正してその扉を開けると、正面には大きなカウンター、その向こうにとてもダンディなバーテンダーさんがいらっしゃいました。
ダンディといっても、オーセンティックなBarのマスターにありがちな優男的な雰囲気ではなく、その美しい立ち姿で、まさに彼がこのBarの空気感を支配している、といった感じ。
平日の夜更けだったせいか、そんなに混雑もしておらず『こんばんは、いいですか?』とお声がけすると、その人はとっても優しく微笑んで案内してくださったので、安心してカウンターへ。
それがこのBar、〈HOWL〉のオーナー、デニーさんとの出逢いでした……。
〈HOWL〉のデニーさんと梅のリキュール『星子』のお話はまた次回に☆
みなさま、今夜も素敵な夜をお過ごし下さいね。
【デニーさんが現在いらっしゃるBarはこちら】
〈HIGASHI−YAMA Tokyo〉
〒153−0043 東京都目黒区東山1-21-25
デニーさんはLoungeのバーカウンターに月曜−木曜(18時〜26時)までいらっしゃるそうです。私も近々久しぶりにデニーさんに逢いに行こうと思ってます。