What’s SEIReN project

甘くて冷たい空気を漂う少女の毒

―不思議の国のダンディ・宇野亞喜良さん―

ガーリーな退廃。メルヘンな官能性。ダークファンタジーの世界。

不思議な引力を持つ宇野亞喜良さんの描く少女絵が大好きです。

淑女のみなさま、こんばんは。
先日、伊勢展新宿店で開催された、宇野さんの展示を見に行ってきました。

超個人的な思いですが、宇野亞喜良さんの描く少女を見ると、ふわふわ〜っと、どこか地に足のつかない処女の甘い残虐性を感じます。

夢物語の中にいるのに、その脳内ではとてもリアルな夢をみている
砂糖菓子のお城の中にいながら、どこかですーっと醒めている。
重力から逃れて、嘘の世界に生きている

けれど少女はいつか女になり、虚構のお城は崩れ去る。
少女ではなくなった女は、現実という灰色のスクリーンを眺め続けることになるのかもしれない。


⇡この図録は宇野亞喜良さんの作品がいっぱい掲載されているのでオススメ♡

宇野亞喜良さんの描く少女は、少女と女の端境期、その一瞬しかない危うい均衡を生きているような気がします。

無垢な天使でもないけれど、娼婦でもない。

あどけない表情には似つかわしくないほどの冷たい眼差しで、自分を取り囲む世界が発する欲望をじーっと眺めている

およそ、この世に清純な毒ほど毒気の強い劇薬はないのではないでしょうか。
その毒にあたって苦しむ人を見ても、きっと少女は動じないでしょう。
彼女にとっては、自らが紡ぐ虚構の物語が美しくなるなら、目の前に何人の男の屍が積まれようが、構わないのです。

少女は、死体の上に綺麗な薔薇を飾ってくれるでしょう―

個展ではフロアを分けてグッズ販売と絵の展示をされていましたが、その展示画のほとんどが新しく描き下ろされたものだそう。


⇡伊勢丹での絵画展示

60年代からずっと活躍されていながら、いまもこんなに多くの新作が!
宇野さんと言えば、1934年生まれ、御年83歳!
そのバイタリティには圧倒されるばかりです。

一緒に展示を見に行った友人のエディター・Mちゃんと話しながら絵を眺めていると、後方から『僕の絵はね……』という声が。
僕の絵……?

『今さ、後ろで、僕の絵、って言ったよね? 宇野さん以外の人がココで“僕の絵はね“って言わないよね!?』
『言わない言わない! 絶対いわないよ、まさかの本人?

振り返れぬままにそんなやり取りをして、やっとのことでふたりで振り返ると、どなたかに絵の解説をしているらしき紳士が。

え、似てる。
世に流通している御本人写真には似てるけど……、でも若い!
80代には見えなすぎるダンディ!

Mちゃんが『いえ、本人です!間違いない!』と断言するので、勇気を出して『あの、宇野先生でいらっしゃいますか?』と話しかけてみると、やはり御本人

しかし、こんなにも老人に見えない80代ってなんなのでしょう……

あんなにも少女性の極みを描き尽くしている方なのですから、さもありなん。
やっぱり宇野さんって、メルヘンの国の人なんだな、と改めて思った次第です。

 


⇡ 会場ではこちらの新刊が販売されていました。

 

ところで、展示されていた新作の中で、どうしても忘れられない絵がありました。
それは、薔薇の花がそのまま少女の姿になった絵
人差し指を顎につけ、ちょこっと首を傾げているうつろな表情が本当に可愛らしい薔薇の精。

ずっと見ていたいくらい惹かれたのだけれど、まだ新作なので図録や本などにもなっていないそう。

『星の王子さま』にも我儘で生意気な薔薇の花の女の子が登場しますが、宇野亞喜良さんの描く薔薇の少女とは似て非なるもの、という気がします。

 

⇡サン・テグジュペリ『星の王子さま』の薔薇と王子

 

テグジュペリの描いた薔薇は、王子さまがいないと生きていけなそうだけれど、宇野さんの描く少女は、きっと少年がいなくても、生きていける。
そう感じさせるのです。

それは彼女が、いつか女になっていくために必要なしたたかさと毒をその棘の奥に秘めているからでしょうか。

サン=テグジュペリの『星の王子さま』を痛烈に皮肉った、とも言われている寺山修司の同名の戯曲。
この舞台ポスターのイラストが宇野亞喜良さんによるものだというのも、なんだか頷ける気がします。

 


⇡宇野亞喜良さん作画による、天井桟敷『星の王子さま』公演ポスター

 

みなさまも、年齢を重ねて女(女どころか熟女の域!)になったとしても、自分の中にある毒薬とメルヘンを、いつまでも大切に♡

 


 

個展に行ってから、こちらのエッセイを読み返しています。
やっぱり素敵。


⇡『定本 薔薇の記憶』。宇野さんの世界観とお人柄のわかるエッセイ

打矢 麻理子

SEIReN編集長

打矢麻理子

様々なジャンルの女性ファッション誌や、ビジュアルブック、書籍制作などの経験を活かし、編集者として活動中。2017年に出版社の編集事業局取締役社長を経て独立。クリエイターチーム「Lilith Edit」、メディアプロジェクト「SEIReN」を主宰。

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